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家の気配を、設計する

2026 6/10
中今の考え方 家・空間
2026年4月24日2026年6月10日
手のひらに乗せた竹炭と、そのまわりに散らばる土の粒

ソファや床に腰を下ろした時、空気の質が昨日と違うことに気づく日がある。気圧のせいかもしれないし、天気のせいかもしれない。ただそれだけじゃない “何か” を、身体が先に感じ取っていることがある。

家に招いた人が、玄関で少し立ち止まって、「なんか、いい感じ」とつぶやく。理由は言えない。私もうまく言えない。けれど、気配としか呼びようのないものが、この家には流れている。

目次

家の設計には、二つの層がある

家づくりの話というと、普通は間取り、動線、素材、光の入り方、といった見える設計の話になる。私もそこには相当こだわって、杉の床を選び、丸いテーブルを置き、LDKをロースタイルにした。

けれど、ある時期から、どうもそれだけでは説明のつかないものがある気がし始めた。同じような素材・同じような間取りでも、家ごとに気配が違う。人が集まる家と、集まらない家がある。長居したくなる家と、早く帰りたくなる家がある。

家の設計には、目に見える層と、目に見えない層がある——この気づきが、この家づくりのもう一つの柱になった。

イヤシロチという言葉

「見えない設計」を言葉で考え始めたきっかけは、三枝誠さんが、ある動画でゲストとして話しているのを見かけた時だった。

その中で「イヤシロチ」という言葉が出てきた。土地そのものに質があり、人が意識的に手入れをすることで、その場を “癒しろ(いやしろ)” に近づけていく、という、古くからある考え方。

ちょうどその頃、私は世の中のいろいろな当たり前を疑い始めていた時期だった。量子力学や波動という物理の領域に触れるうち、目に見えるものと見えないものの境界は、実はそれほど明確ではないらしい、と知った。その流れで、日本に古来からある “場” や “気” という考え方に、もう一度向き直るようになっていた。

イヤシロチは、その流れの中で出会った言葉だった。「ああ、昔の人は、家を建てる土地の質を、ちゃんと考えていたのだな」と素直に思った。

この家でやった、三つのこと

イヤシロチ化のために——と言うと硬い。けれど、家を迎える場として整えるために、三つのことを実践した。

1. 地鎮祭を、形式で終わらせない

家を建てる前に、神主さんをお呼びして地鎮祭をやる家は、いまでも少なくない。ただ、多くの場合は形式的に終わる。

我が家の地鎮祭では、四隅に盛り塩をして、土地に酒を振りかけた。結界を張り、清め、場を整え、そこに棲むものに挨拶をする。全部が、ただの形式ではなかった。神主さんが作法をひとつひとつ丁寧に踏んでいく中で、場がしんと整っていく感覚が、確かにあった。

あの瞬間にしか得られないものが、確かにあったと、いま振り返って思う。

2. 玄関の床下に、竹炭を二百リットル埋めた

家を建てている最中、大工さんに頼んで、玄関の床下に竹炭を二百リットル埋めてもらった。

正直に告白すると、大工さんには「調湿のためです。板張りの玄関なので、板が腐らないように」と伝えた。本当の動機にはもう少し別のこと——竹炭が場の空気を整えると古くから言われてきた——も含まれていたけれど、そこは言わなかった。嘘ではない。調湿は、実際に必要な機能でもあったから。

本当は床下全面に埋めたかった。ただ、そこまでの予算はかけられなかった。家が建ってしまえば、後から自分で入って敷き詰めることもできる。けれど、一度家が完成してしまうと、なかなかそこまでのエネルギーは湧いてこないものだ。これから家を建てる方には、工事中に全面に埋めておくことを、静かに勧めたい。

3. 住み始めに、EM菌をスプレーした

発酵微生物——いわゆる善玉菌の集まりを、EM菌と呼ぶ。掃除用や土壌改良用に、液体として流通している。

住み始めの頃、家全体にこれをスプレーした。壁、床、水回り、玄関周り。その後も時々、気が向いた時に、掃除と一緒に使っている。

これも、科学的に「絶対にこうだ」と証明された話ではない。ただ、長年の実感として“善玉が優位な場所” はどこか空気が澄んでいると感じる人が、世の中には多い。私もその一人として、試している。

住んでみて、感じていること

では、これらの “見えない設計” が効いているのかと問われると、正直、本当のところは分からない。

地鎮祭が効いているのか、竹炭が効いているのか、EM菌が効いているのか、杉の床や丸テーブルが効いているのか、全部が合わさって何かになっているのか、切り分ける方法が私にはない。

ただ、この家を訪れた人は、ほぼ例外なく「落ち着く」「思わず長居してしまう」と言う。これは、事実として起きていることだ。

少し前、我が家をハウススタジオとして貸し出した時、撮影に来たスタッフの一人が、庭のシンボルツリーを見て、少し涙ぐんだことがあった。「この家の温かさを、この木も喜んでる」と、その人はそう言った。敏感な方だったのだろうと思う。けれど、あの言葉が、なぜかずっと頭に残っている。

人は、見えないものを、案外ちゃんと受け取っている。

まだ、試したいことはたくさんある

見えない設計というのは、試し始めてみると、まだ自分がやっていないことの方が遥かに多いと気づく。

古来、家を建てる土地を選ぶにしても、方位を決めるにしても、家の中の何をどこに置くにしても、そこには実に多くの「目に見えない技術」が積み重ねられてきた。その全部が、迷信とも科学とも言えない、ただの積み重なった観察の結晶として、日本中、世界中に残っている。

量子力学が見えないものと見えるものの境を曖昧にしつつある現代、これら古い知恵と現代科学は、たぶん別々の世界の話ではなくなっていく。

私は、家という場所で、その境界を自分の身体で確かめてみたいと思っている。
完成形はない。たぶん、これからもずっと、小さな実験を重ねながら、この家と暮らしていく。


この記事を読んでくれた誰かが、自分の家の気配にふと耳を澄ませてくれたら、それでいい。
見える設計と、見えない設計。両方に気を配る暮らしの端緒は、案外そこにあるのかもしれません。


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ワ空間つくラボ代表/「暮らしの中今」編集長。千葉県いすみ市で、自ら設計した家に家族と暮らしています。いすみでの実体験と、房総の家・素材・つくり手との出会いから、暮らしの改善と「中今」の考え方を綴っています。

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